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宏太は去年高校を出て、地元の企業に勤めたものの長続きしなかった。今はコンビニでアルバイト中だ。そのアルバイトもコロナ騒ぎでシフトの変更があった。六月に入った今日から三日間休みになってしまった。 「暇です」 高校時代の先輩の友田さんに電話したら、 「アネキが男の子を産んだんだ。顔を見てくる。コロナ第二波が来るかもしれないだろ」 と、今から千葉まで車で行くという。 「県をまたいでの移動は、自粛ってことになるとしばらく会えなくなる。行くんなら今だって思ってさ」 慎重派の友田さんにしてはめずらしいと笑いかけて、去年死んだ父を思った。 (柏葉幸子「人魚姫の町」)
図書館で柏葉さんの新刊(?)を見つけました。久しぶり。東日本大震災から九年、柏葉さんはしっかり今を生きているのだなと深く感じ入った。私も、学校が閉まり、何ヶ月も図書館が使えなかった数年前の日々を絶対に忘れない。忘れないだけではなく、今の生き方に繰り込んで行くつもりです。帯に『岬のマヨイガ』アンサー作品とあった。なるほど、アンサーだ。
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