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No.1138 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第130号 前半   引用
  あらや   ..2024/12/09(月) 16:32  No.1138
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 二十歳代までだったか、三十歳代までだったか、もうまるっきり感じなくなったが、四季のにおいを嗅ぎわけていた頃があった。おそらく自分だけの嗅覚かもしれない。いや嗅覚というものでもなく、頭の芯のほうで捉えるような感じである。いや、それも違う。体全体に感じていたというのが適切だ。
「さやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という視覚や聴覚で捉えるものではなく「みかんの香せり冬がまたくる」といった季節の風物のにおいでもない。純粋無垢混じりっけなしの季節の「におい」なのである。空気のというより大気の「におい」であって、臭い、匂い、香り、と漢字を当てると違うのである。
(福島昭午「記憶」)

福島さんの小説作品が帰って来た!
第130号作業はすでに始まっています。130ページですので年内に終わらせたい。今号は、佐藤瑜璃『かもめ荘冬景色』、福島昭午『記憶』、内田保夫『残酷な終局』、丸本明子『駅前』、土肥純光『馬車道・遠い日』、針山和美『北からの風』と続きます。
『かもめ荘冬景色』はワープロ作業はすでに終わっているのですが、内容構成に不明な部分があり、単行本を取り寄せて確認してから公開したいと考えています。

 
▼ 北からの風   引用
  あらや   ..2024/12/13(金) 18:42  No.1139
   ゴルバチョフさんが帰国されてしばらくしてから発表になった抑留死亡者名簿というものを、わたしは薄くなった眼に強い老眼鏡をかけてくまなく見ました。でも初めのものには見つかりませんでした。それからしばらくして発表になった二回目の名薄でとうとう発見したのです。死亡が確認できれば長いあいだのわだかまりが消え失せ、わたしは心からホッとするはずでした。ところが死亡が一九五二年となっているのです。昭和でいいますと二十七年なのです。
(針山和美「北からの風」)

道立図書館に予約した『セピア色の薔薇』がなかなか届かないうちに、他の作品のアップはどんどん進んで、先ほど針山和美『北からの風』もアップしてしまいました。
人間像ライブラリーでは「一九五二年」となっている箇所ですが、雑誌発表形でも単行本『北からの風』でも「一九五七年」となっています。針山さんの計算ミスと思いますが、誰か単行本出版までに指摘できなかったのかなあ。私が気がついたのは、私が昭和二十七年生まれだからです。自分が生まれた時代の雰囲気が描かれていて大変興味深かった。
第130号作業が完了したら、単行本『老春』を人間像ライブラリーに挙げたいと考えています。『四月馬鹿日記』は単行本のための書き下ろしみたい。

 
▼ かもめ荘冬景色   引用
  あらや   ..2024/12/15(日) 14:45  No.1140
   浜小幌駅裏の岸壁にほど近い入船町仲通り。置きざりにされたようにポツンと一戸建っている古い大きな木造建築、まるで廃屋のようなかもめ荘も、宵の口ともなれば人間が住んでいる事を主張するかのように窓々に灯がともり、出入口はざわめく。
 夜間の商科短大へ通うデパート店員の洋子が、「わあ大変だあ遅刻するう、今日試験なのよう時間ないのっ、どいて、どいて」と玄関横の古びても豪華なバラのタイルばりの共同洗面所で仕事から帰って来て手を洗っている大工の辰っあんをおしのけて蛇口をひねる、蛇口は四つあり誰も使っていないのに。手を洗い終った辰っあんは笑いながら洋子の形のいいお尻をペンペンとたたく。洋子は「キャアセクハラッ、訴えられたくなかったら示談金千円出しな、あっ二つだから二千円よ、はい」と手を出す。そこへ屋台ラーメンの謙さんが通りかかる。「辰っあん、現行犯だ、見のがしてやるからこっちへ千円払いな」と笑いながら言った。
(佐藤瑜璃「かもめ荘冬景色」)

ようやく本が届いて、先ほど『かもめ荘冬景色』をライブラリーにアップしたところです。ラストの個所に一文字誤植があって、たぶんこうじゃないかな…とは思っていたのですが、単行本で確認するまでは直せなかったのでした。
作品では「小幌」となっていますが、この「浜小樽駅」は実際にあった駅です。旅客はなく、貨物専用で、小樽築港駅から支線が延びていました。デパートも、これも札幌ではなく、小樽市内のデパートです。勤務が終わって、一旦「かもめ荘」に戻って、商科短大に行くわけですね。位置関係がわかると、なぜ「かもめ荘」の前に捨て子があったのかもぼんやりとわかるような気がする。

 
▼ 沼田流人伝   引用
  あらや   ..2024/12/20(金) 17:59  No.1141
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第130号の発行は平成4年(1992年)の4月ですが、ここで初めて武井静夫『沼田流人伝』の広告が出ました。「人間像」の広告は一般誌の商業広告とは違います。すべて同人による広告文です。丸本さんの本については針山さんが書く。針山さんの本については朽木さんが書くというように、いちばん推している同人が責任を持って書いているのです。『沼田流人伝』については特にクレジットが入っていませんから編集の針山さんの文章ではないでしょうか。ここから沼田流人にまつわる誤読の歴史が加速して行く…と思うと何かいたたまれない気持ちになる。

 
▼ 「人間像」第130号 後半   引用
  あらや   ..2024/12/20(金) 18:40  No.1142
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「人間像」第130号(130ページ)作業、終了しました。作業時間は「64時間/延べ日数14日間」。収録タイトル数は「2453作品」です。裏表紙は前号と同じ。

◇ペレストロイカ、クーデター、八月革命と続いたソビエト連邦が遂に解体し、独立国家共同体という意味不明の集団になってしまった。独立国家同士の緩やかな共同体ということだが、社会主義から資本主義への転向がそんなに簡単に可能なのだろうか。自由経済の移行と同時に姿を現すインフレなどに泣く庶民が多い事を思えば、またまた暴動やクーデターが起こりはしないかと不安がつきまとう。そんな不安を残しながら越年したと思ったら、こんどはアメリカからブッシュ大統領が自国の不況脱却の切り札は日本にありと言わんばかりに、自動車メーカーの社長などを従えて乗り込んで来た。「一粒の米も入れない」という頑なな日本の保護主義をどこまで突き崩せるか。そんな最中の本誌編集となった。
(「人間像」第130号/編集後記)

そんな最中の本誌編集となった…か。いろいろ考えなければならないこともあるのだろうけれど、私は人間像ライブラリーの仕事を続けて行きたい。明日から針山和美『老春』の復刻に入ります。



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