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▼ 「人間像」第113号 前半   引用
  あらや   ..2023/07/28(金) 17:11  No.996
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二三日前から第113号作業に入りました。第113号は約230ページの大冊なんですが、その半分は千田三四郎『見果てぬ夢舞台』という乾咲次郎ものです。つまり、前号の連作「落ち穂」の続きといつもの「人間像」レギュラー作品群が合体したものが第113号といえるでしょう。「落ち穂」の感覚がまだ残っているうちに仕事を始めようと考えました。

 誘われてその気になったのは、政論を劇で鼓吹≠オようという壮士芝居の客気が地方に余燼をくすぶらせていたからで、中央でとうに途絶えたはずの幕間演説もまだ堂々とやられていたせいだろう。大衆に何かを訴えかける自分の、颯爽とした姿が、想像をくすぐったにちがいない。しかも前年に、その草分けと称えられる川上音二郎(一八六四―一九一一年)一座の東上公演を見物しており、舞台がかもす劇と演技の世界≠ノも魅了されていたからだ。
(千田三四郎{見果てぬ夢舞台}/序幕「模索」)

作業を進めているとこんな箇所にぶつかる。ちょっとだけ手を止めて、啄木の新聞記者を想ったりする。啄木の人生も明治の「小新聞」(北海道)から現代につながる「〈東京〉朝日新聞」の時代の変転の中にあったけれど、同じことを、東京で観た壮士芝居を起点に人生を生ききった人間がいたことにじつは感動しているのです。

 
▼ 見果てぬ夢舞台   引用
  あらや   ..2023/08/08(火) 10:03  No.997
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 咲次郎は、英吉の姓を失念したのか、私記に書きもらしている。たぶん尾張ではないかと思われるが、それは詩人石川啄木の文章のなかに出てくるからだ。釧路で新聞記者をしていた啄木が、親友の宮崎郁雨宛てに明治四十一年二月に送った手紙によると、料理店○コ喜望楼について言及し、○コには大小十一人のペンペン猫(芸妓)がいる。呼んだのはその十一人のうちでチョイト名の売れてゐる小静というので、三面先生のノートによると年齢二十四、本名尾張ミヱ、小樽・札幌ではやっている新派俳優朝霧映水の妹だ。小静はよく弾きよく歌った。僕はよく笑いよく酔った≠ニ書き添えている。咲次郎から朝霧の芸名を貰って八、九年後には道央でかなり知られた存在になっていたようだ。
(千田三四郎「見果てぬ夢舞台」/第二幕「愛憐」)

なるほどね。これで〈乾咲次郎〉の時代的な位置関係がぐっと鮮明になった。今読んでいる『ゴールデン・カムイ』(←今頃!という声もあるが、絶対に完結してから読んだ方がいい)にもこの釧路時代の啄木が登場したりして、一人でニヤニヤしています。

ヤフーで「小静」の写真を探したけれど見つからなかった。(「小奴」ばっかり!) たぶんこれだったと思うのだけど、自信なし。検索してたら、昔やってた「おたるの青空」の澤田信太郎『啄木散華』が出て来て吃驚した。

 
▼ Windows XP   引用
  あらや   ..2023/08/12(土) 10:14  No.998
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先ほど、千田三四郎『見果てぬ夢舞台』(約100ページ)をアップしました。

このところ小樽でも30度を超える毎日が続いています。そのせいなのかどうかわからないけれど、「人間像」作業のワープロ編集段階に使っていたデスクトップ・パソコンがついにご臨終になってしまいました。今のパソコンみたいに無駄な機能がごてごて付いてなくて、Windows XP上でワープロソフト「一太郎」がサクサク動くという昭和の風景が気に入っていたんですけどね。残念無念。ご冥福を祈ります。デスクトップがなくなると、机の上がとたんに広々としたのが救いか。

さて、今日から通常の「人間像」第113号作業です。まずは日高良子さんの『中三病棟十六号室』から。

 
▼ 竜宮城から来た馬   引用
  あらや   ..2023/08/22(火) 14:54  No.999
   ふと気がつくと馬そりがとまっている。
 そしてすぐ目の前に一軒の家があった。
「あっ、着いてる」
 アキラが叫び、毛利さんも眼をさました。だが親方はすぐに気がついたのだ。
「やれやれカメの奴どこさ来たんだべ。これ、別の家だぞ。今夜のカメはちょっとへんだ」
 まちがいをまず馬のせいにしておいて、親方はのろのろとそりを降りた。アキラもつづく。仕方ない、ここで道をたしかめてもう今夜は支ホロロさ帰るべと、二人して門ぐちを入って行った。
 そうしたらなんと、ここが目ざす灯の見える家だったのだ。
(朽木寒三「竜宮城から来た馬」)

朽木寒三、恐るべし! 千葉の人がここまで〈北海道〉を描いちゃうんだ…と腰を抜かしました。本当は、『見果てぬ夢舞台』を仕上げた時点で、あとはてきぱき作業を進めて第113号完了となるはずだったんだけど、最後で『竜宮城から来た馬』みたいな作品に遭遇しちゃってまことに嬉しい悲鳴です。いい夏の思い出になった。

 
▼ 「人間像」第113号 後半   引用
  あらや   ..2023/08/25(金) 17:09  No.1000
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本日、「人間像」第113号(約230ページ)作業、完了。作業時間は「123時間/延べ日数28日間」でした。収録タイトル数は「2151作品」になりました。

作業途中でデスクトップ・パソコンが壊れたため、その廃棄とワープロ専用の代替パソコンの設置などで少し時間をくいました。今度はノートパソコン2台なので、かなり部屋がすっきりした。これを機に、もう使うあてのない資料は処分して、来るべき〈松崎天民〉用のスペースを部屋に作ろうかとも考えています。

千田三四郎氏の〈咲次郎もの〉は次号の『道のり』という作品で完結するみたいなので、これから休みなしで「人間像」第114号作業に入る予定です。

裏表紙は第111号以来変わらないので省略。画像は今回第113号の奥付ページです。なんと「編集後記」に墨ぬり部分がある! 創刊号以来「人間像」を長らく扱って来ましたが、こんな墨ぬりは初めてです。何かあったのだろうか。
あと、針田和明氏の住所、「浜益村」に変わっていますね。『ねずみ』に書いてあったことは本当だったんだ。



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