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▼ 北海タイムス物語   引用
  あらや   ..2018/07/12(木) 08:51  No.458
  「新入社員に毎年紹介してますが、あれはタイムス少年像というものです。昔、うちの会社は北海道の貧しい田舎でタイムスの新聞配達をしている少年たちに奨学金を出して高校や大学に行かせていました。そのときの名残りです」
 たしかに左脇に新聞の束を抱えていた。その少年の後ろには大きな鳩がレリーフされている。
 桐島さんが僕の顔を見た。
「鳩が気になるんでしょ」
「あ、はい……」
 桐島さんがくすりと笑って「毎年新人に聞かれてここで説明してるけど今年は宿題にします。鳩と新聞社の関係、考えといて」と言った。
(増田俊也「北海タイムス物語」)

で、これが竹中敏洋「タイムス少年像」。「北海タイムス」はもう廃刊しましたから、もうこの彫刻はありません。写真は、原子修の彫刻詩集『札幌の彫刻をうたう』(みやま書房,1981.10)からお借りしました。

野外彫刻って、けっこう動くんですね。この彫刻詩集の中央区エリアだけでも、例えば、エイトビルにあった梁川剛一「開拓凱旋の像」や、札幌市民会館にあった竹中敏洋の「札幌市民憲章」レリーフが改築などでいつの間にか消えたりしています。で、突然、駅前のアスティ45壁面の竹中敏洋「THE SKY」を見つけて、あれーっ、これって「札幌市民憲章」レリーフじゃないの?とか。なかなか奇怪なことが多い。

 
▼ ことば   引用
  あらや   ..2018/07/12(木) 08:57  No.459
  「彼女は原稿を書き上げたその日の夜、十九歳で亡くなった。だから彼女は出版されたこの本を見てないんだよね。作家が命を削って書いた本ていう言葉があるよね。でも彼女は命を削ったんではなくて、命と引き替えにこの活字を遺した。ほんとに俺たちアイヌ民族の誇りだよ」
「…………」
「なにかの目的を持って人間が生まれてくるのだとしたら、彼女はこの本を出すというたった一つの目的のためだけに生まれてきたのかもしれない」
 そう言ってマスターはウィスキーを一口飲んだ。
「俺、浦さんが大学時代に戻ってきたときこの本を貸したのさ。それをお守りのように肌身離さず読んで、精神的にきついときに自分を鼓舞してたみたいだよ」
「きついとき?」
(増田俊也「北海タイムス物語」)

ことばが、いちばん動かないものかもしれない。残したいと思う人がいる限り、ことばは、作品は残って行く。

知里幸恵のことばは人々の心に残って行く。『北海タイムス物語』が残るかどうかはまだわからない。

 
▼ シャトゥーン   引用
  あらや   ..2018/07/19(木) 14:14  No.460
   このところ、天塩研究林ではヒグマによる人身事故が続いていた。二年前の冬、フリーの動物カメラマンが行方不明になり、捜索隊によって片脚と頭骨のー部が発見された。山狩りで擊ち取られたヒグマの胃の中から、カメラマンの骨や髪などが出てきた。その半年後には、薫のかつての師である北大の夏目次郎教授が行方不明になっている。こちらは死体は見つからず、ヒグマに食い尽くされたのだろうと言われている。
(増田俊也「シャトゥーン」)

アマゾンで「吉村昭」とか「羆嵐」を引くと必ずこの本が関連で出てくるので昔から気にはなっていたのですが、これも増田俊也だったんですね。『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』、『七帝柔道記』、凄いですね、ヒット作ばかりじゃないの。

写真は、去年の夏、彫刻写真を撮りに稚内へ行った時、通り道だったので苫前の「三毛別羆事件復元地」にも寄った時の一枚です。いやー、北の沢。羆のエリアと人間のエリアの接点そのものですね。「シャトゥーン」が「穴はずれ(穴持たず)」の意味だとは… 勉強になりました。

 
▼ 七帝柔道記1   引用
  あらや   ..2018/08/15(水) 16:45  No.463
   一番のラストを見て、ああ私が入部した日の夜、和泉さんが歩きながら口ずさんでいたのはこの歌だったんだと気づいた。歌手の持ち歌ではなく寮歌だったのだ。
 杉田さんによると『都ぞ弥生』の都≠ニは札幌ではなく東京のことを指しているらしい。弥生≠ヘ陰暦で三月、つまり新暦で四月前後のことを指す。寮歌が作られた当時は旧制高校は九月入学だった。四月、東京で花見の饗宴に参加しながら、大都会の享楽と奢侈にうんざりし、暮れゆく北の空に瞬く星々を見て《人の世の清き国ぞとあこがれ》、北大予科に入学しようと決心する東京の旧制中学生の気持ちを一番の歌詞で歌っているのだという。つまり一番はプロローグで、二番からが入学後の札幌の四季を歌っているらしい。
(増田俊也「七帝柔道記」)

ふーん、なるほど。今回も蘊蓄の山ですね。七帝の柔道着をあしらった表紙、カッコいい。

 
▼ 七帝柔道記2   引用
  あらや   ..2018/08/15(水) 16:49  No.464
  「搏c君、あんた井上靖の『北の海』読んだかいね」
「はい」
「あのなかに出てくるじゃろ。寝技には立技のような僥倖はないんじゃ。寝技が強いやつは必ず弱いやつに勝つ。引き分ける力のあるやつは必ず引き分ける。十五人の団体戦の七帝戦には、確実に計算のできる寝技なんじゃ。ポカは許されん。立技は強くても何かの拍子で飛ばされる」
(増田俊也「七帝柔道記」)

懐かしいな。初めて勤めた図書館(学校図書館)で、その夏の読書感想文コンクール課題図書が『北の海』だった。課題図書だったからかな、もちろん読んでません。反省して、図書館から借りてこようと思ったけれど、今日も雨降ってる… 日和って、ジュリアン・グリーン『幻を追う人』が先になりました。



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