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『あの若者がはだか馬に乗って、何頭もの馬をたくみに追い込んでいくのを見ていると、オレの青春を埋めた満州での日々が思い出されてならぬ。なんとか、あの青年と会って話してみたい』 斎藤昭は毎朝、台町の家を出て近くの磐井川の堤防に、ごじまんの愛馬「ときいわ号」を運動がてら走らせにいく。少年時代、北海道釧路の大湿原で牧夫をしていた頃の彼は、他の親方たちや先輩の牧夫連中と同様、よほどの遠出か改まった用事ででもない限り鞍など置いたことはなく、せいぜい古毛布をハンケチほどの小さに切った四角なきれっぱしを尻の下に挟むぐらいのことで、はだか馬を乗り回していた。それで彼は、故郷の一関に帰り数年たったいまも、「ときいわ号」をはだか馬のまま自由自在に走らせるのが快いのである。 (朽木寒三「小山田さんの鉄砲」)
この「斎藤昭」シリーズ、最高。今回は特に、元馬賊の老人と博労の若者の出合いとか、朽木さんでなければ絶対に書けない世界ではあります。舞台が釧路(北海道)と岩手県というのも私好みだし。しばらくご無沙汰していた朽木さんの「人間像」復帰を心から喜んでいます。
第115号が完了した翌日から「人間像」第116号作業を開始しています。『小山田さんの鉄砲』の次は、千田三四郎『ぎんぎらぎん』、丸本明子『竜の落し子』、矢塚鷹夫(新同人)『吸血鬼物語』、針田和明『雄冬の冷水』と続きます。
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