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会社の帰り、気の合ういつもの五、六人で、スナックバーに寄ることがある。雑談をしたり、カラオケをやったりと言うたわいないものだが、これが純平たち安サラリーマンの簡便なストレス解消法になっていた。 この日も、誰いうとなしにいつものメンバーが集まり、行きつけのスナック『ブルーバード』に来ていた。上司の悪口や同僚の噂ばなしをつまみに安い焼酎やウイスキーの水割りを飲むのだ。当面の話題が尽きると、カラオケをやったり、それに合わせて踊ったりする。いつもなら、純平がマイクを握ることが多いのだが、この日は若い連中が先に踊り始めたので、純平はいささか手持ちぶさたであった。 「川上さん、踊りましょうか」 立木英子が声をかけた。 (針山和美「雪が解けると」)
第118号作業、スタートしました。久しぶりの針山作品。この『雪が解けると』は、三年後、単行本『天皇の黄昏』に『春の淡雪』とタイトルを変えて発表されています。私は『春の淡雪』の方を先に読んでいますから、今回の雑誌発表形の『雪が解けると』にはかなり驚きました。結末部分が大胆に書き換えられている。同じ話で二度楽しめる。
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