| 二人を乗せたオートバイは、すがすがしい秋風を切って山を駆け降りた。 途中の中山峠は細くて険しい砂利道である。一歩誤れば千仞の谷でもちろん命は無い。しかしおんちゃはあまりスピードもゆるめず右に左にカーブを切って駆け登った。雪子は声も出さずしっかりとおんちゃの腹にしがみついていた。 頂上付近で一休みする。遠くに頂上を白く染めた羊蹄山がはっきりと輝き雪子を感激させた。 「わあ、綺麗だ。こうして広い景色を眺めていると下界の嫌な事なんかみんな忘れちゃうね」 (針山和美「嫁こいらんかね」)
この、たたみかける山麓の風景がたまらない。好きな針山作品は?、おすすめの針山作品は?と聞かれることがあると、いつもは『愛と逃亡』とか『百姓二代』とかと答えるのだが、たまに間違って『嫁こいらんかね』と答えてしまうこともあった。
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