| とにかく、三つか四つの頃から並はずれて生き物を好む子供だったが、中でも馬が大好きで、やっと鉛筆を持って物の形らしいものを書くことができるようになったとき、まず描いたのが馬の絵で、それ以来、描く絵は全部馬ばかりだった。 絵とはいっても、紙の上に横向きの細長い四角を書き、頭の部分は簡単な丸ですませて、そのあとは首も四つ足も一本の細い線という簡単なものである。だが、何枚も何枚も紙のありったけ同じものをくりかえし書きつづけて飽きることがない様子なので、父親の勇治が、 「これ何んの絵だ」 と聞くと、昭は小さな胸を張り、 「馬っこだ」 ためらうことなく明解に答えた。 (朽木寒三「縁の下の砦」)
いつもの〈斎藤昭〉シリーズとは趣を異にして、この作品では〈斎藤昭〉の幼少期が語られる。シリーズにこの一作が入ると、シリーズ全体の物語世界が十倍ぐらいに拡がりました。これは、朽木寒三の〈イーハトーヴ〉か。
|