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No.1143 への▼返信フォームです。


▼ 老春   引用
  あらや   ..2024/12/28(土) 13:29  No.1143
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 ぼくらの年代は戦中から戦後にかけて青春時代を過ごしたことになるが、一世代前の老人と言われる人たちは戦前から戦中にかけて青春時代を送っている。従ってそう言う人たちを描く場合どうしても戦争時代の影を省くことはできない、と言うのがぼくの固定観念にもなっている。関わりの軽重・深浅はあろうが、むしろ老いが深まるにつれて戦争にまつわる影は濃さと重さを増して思いだされるのではないか、と言うのもぼくの中に固く観念化されている。そうした影を意識しない人がおれば、その人はまだ実際には〈老いて〉はいない人なのではないか。一作ずつを書きながら、そんなことを思った。
(針山和美「老春」/あとがき)

2024年の暮れから2025年の新年にかけての仕事になるのかな。小樽のひきこもり生活も8年目に入ります。『老春』の作品群を今一度ワープロから起こしていると、なぜか、馬鹿だった自分の若い頃をあれこれ思い出す。


 
▼ シマ婆さん   引用
  あらや   ..2024/12/28(土) 13:35  No.1144
   私がシマ婆さんを初めて訪ねたのは、もう十五年程も前になる。
 K町と言う私の生まれ故郷で、開町八十周年記念の行事が開催され、その一環として町史を発行する事になった。当時、私は中学で社会科を教えながら、郷土史に関心を抱き、特に戦時中の庶民の生活や官憲の横暴、朝鮮人や中国捕虜の様子など調べていたので、戦時中の章について執筆を依頼されたのがそもそもの始まりだった。ところが、警察関係を調べているうちに、佐坂正平という者が治安維持法違反容疑で逮捕され、数日後には急性肺炎で死亡した事になっている事実を知った、小林多喜二の例もある事だし、私はその真相を明確にする事に興味を持った。
(針山和美「シマ婆さん」)

驚いた。「京極文芸」に発表した『敵機墜落事件』が「人間像」の『山中にて』に変身した時と同じくらいの衝撃でしたね。針山さんの小説家としての力量をまざまざと感じました。と同時に、合評会の威力というものも感じた。同人たちの講評無くして、こういう作品はなかなか生まれて来ないだろう。K町、W鉱山、手宮富士、胸がわくわくする。

 
▼ 老春   引用
  あらや   ..2025/01/04(土) 17:11  No.1146
   今日のために一生懸命練習したには違いないが、素人は素人、テレビで眼の肥えている者にとっては気の毒なほどにも見えた。しかし時間つぶしにはちょうど良く、生あくびを噛み殺しながら見ていた作太郎だったが、おしまい近くなって三人の老婦人の踊りが始まると知らず知らず舞台に喰い入っていた。踊りが上手と言うよりはその中の一人に魂が奪われたのである。まだ姿形も若々しく、厚化粧してはいるのだろうが、顔も綺麗だった。それだけならそんなに心が奪われる事もなかった筈だが、見ているうちに胸が苦しくなる程の懐かしさが込みあげていた。作太郎は石にでもなったように身じろぎもせず見入っていたが、あっと言う間に幕が閉まっていた。
(針山和美「老春」)

大晦日のあたりで別の作品に関わっていました。それが終わって一昨日あたりから『老春』の作業再開です。『洋三の黄昏』を終えて、本日『老春』をアップ。明日より『まぼろしのビル』〜『黄昏の同級会』〜『四月馬鹿日記』へと続きます。ザーッと読んだだけですが、『シマ婆さん』のような大胆な改稿はなく、雑誌発表形に近い形のようです。

 
▼ 四月馬鹿日記   引用
  あらや   ..2025/01/13(月) 13:47  No.1147
  その家内が今度ばかりは僕の言う事を無視して、道議は誰とか、市議は誰などとメモしている。何せ隣近所に自民党や民社党や公明党のファンが大勢いて、義理と人情で縛りつけ後援会にまで参加させると言う訳だ。まあ最初のうちは名前だけ貸したつもりでも、演説会などに出入りしているうちにだんだん妙なしがらみが生じて、いつの間にか庇を貸して母屋を取られる式に、気がついて見たら身も心も後援者になっていたと言う具合らしい。
(針山和美「四月馬鹿日記」/四月七日)

まず起床は六時である。これは休みの身に早すぎるかも知れないが、実際にはもっと早く五時には覚めているのだから、仕方がないところだ。あまり早くから起き出してストーブなど焚いたのでは小言の種になるから、六時までは我慢して布団の中にいる事にしている。
(四月二十五日)

「婆さんや、国旗は立てたか?」
「国旗って、あの日の丸のこと?」
「決まってるじゃないか。今日は陛下のお誕生日じゃろうが、国旗立てんで、どうする」
「お爺ちゃん、日の丸なんて、うちにはありませんよ」
「そんな事あるもんか。ちゃんと神棚の下に入れてあるはずだ」
「そんなの、大昔の話ですよ。ここ何十年も日の丸なんて揚げたことなんかありませんよ」
(四月二十九日)

どういう時に針山さんの小説が生まれるのかが窺え、大変興味深かった。『老春』、終了です。一応、参考として、かかった時間は「75時間/延べ日数17日間」でした。大晦日〜正月の時間を跨いでいますのであまり参考にはなりません。さて、第131号かな。



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