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No.1148 への▼返信フォームです。


▼ 「人間像」第131号 前半   引用
  あらや   ..2025/01/18(土) 14:04  No.1148
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第131号作業、開始です。120ページですので月末までに終わるでしょう。今号は、千田三四郎『つけらっと…』、日高良子『春が行く』、佐々木徳次『風が吹く』、内田保夫『絆』、丸本明子『鳥と画学生』、針山和美『省三の夢』と続きます。

 意気込んで始めた創作が、サッパリ捗らない。毎日が日曜日と言う事になれば今日ぐらい休んでも明日があるさと思いがちになる。これがノンプロ作家の落とし穴かも知れない。なにせ、締切なんてないのだし、尻を叩く者もいないのだから、自分の精神力だけが頼りと言う訳だ。
 精神力を試すために、急に思い立って今日から禁煙を始める事にした。禁煙を完成させる精神力と言うのは大変な事だと信じているからである。
(針山和美「四月馬鹿日記」/四月十八日)

禁煙の効果なんでしょうか。この頃からの「人間像」は煙草のヤニに汚れていない、キレイなんですね。


 
▼ つけらっと…   引用
  あらや   ..2025/01/18(土) 14:09  No.1149
   「むじゃけるでないの、ほれ袖がこんになにむじゃけて。あれ、おめは小泊の……、わいー、めぐせじゃ」
 ソノは身をひねり用心深く拒んだ。ずれた笠と手拭いを元のように被りなおし、うねる踊りの列に戻ろうとした。だが嘉助は袖をにぎって放さず、ひたむきに「前から懸想してたんだ。なでねばまえねって。あっちで、わと所帯もつ相談こしなべか」と誘ったが、ソノは汚らわしそうに男をにらみつけて、
「はんかくせ、なして、おめとそったらこと……」
(千田三四郎「つけらっと…」)

まず、一発目の「つけらっと」がわからない。千田さんの文章はルビの多用が特徴なのですが、今回はルビにプラスして方言の標準語訳までが付いたので恐ろしく時間がかかりました。今は亡き瀬田栄之助さんを懐かしく思い出す。今月中の作業完了は無理かもしれない。

 
▼ 鳥と画学生   引用
  あらや   ..2025/01/24(金) 11:12  No.1150
   鳥の鋭叫が脳裡を被う薄紙を剥す。
 ビルの外壁の塗り替えの塗装工事のために、外壁にそって組まれた足場の上で、トシはペンキ塗りをしている。
 手を上下左右に動かす単純な行為の惰性のような時間の中にいる。落下したら命は無くなることは重々知っている。神経は極限状況に張り詰めたまま、ビル風の強風に吹き哂しの、危険に身を曝して、感覚が麻痺する。
 トシは、昨日の画学生の事を考えていた。
(丸本明子「鳥と画学生」)

丸本さんの作品には、七、八回に一度くらい素材と語り口がぴたっと嵌まる一瞬があり、その時の作品はとても深い印象を残します。この『鳥と画学生』がそうでした。誰にも真似ができない。

 
▼ 省三の夢   引用
  あらや   ..2025/01/24(金) 11:16  No.1151
   下手稲通りをまっすぐ東へ抜け、札幌の中心街を突っ切る石山街道を南に走る。
「花つむ野辺に、日は落ちて……」 そんな古い唄が口を衝いている。藻岩山の麓を左折して豊平川を渡り真駒内を抜けると、一路支笏湖をめざした。石山・常盤などの新興住宅街を抜けると道はすぐに緩やかな登り曲線の連続となり、やがて蝦夷松や岳樺の樹木が鬱蒼としている。最初の坂を登りきったところで先のとがった鋭い稜線が見えてくる。恵庭岳の頂上である。
(針山和美「省三の夢」)

本当に「省三」の「夢」だった。

『四月馬鹿日記』に描かれた人間関係や事件から、針山さんの小説の様々なアイデアが生まれて来ることを知りましたが、針山さんの「夢」からも生まれていたんですね。『支笏湖』や『春の淡雪』の閃きが随所に露出していて、私は乗りに乗って根をつめて一日で仕上げてしまいました。他人の夢の話を聞かされることくらい苦痛なことはないのですが、この『省三の夢』には一切そういう感情は起こりませんでした。ある種、針山さんの隠れた名作ではないだろうか。

 
▼ 作品と作者   引用
  あらや   ..2025/01/27(月) 06:31  No.1152
   長いこと『人間像』の愛読者であった女性から「講読をやめたいので送本不要」という申し入れを受けた。これはショックだった。
 ご存じのように同人誌の読者などは、どの雑誌だってごく少数に限られていると思う。特に『人間像』の場合は誌代を払ってくれる定期講読者はきわめて少ない。従ってお金を払って読んで下さる人は大事にしているのだが、十数年来の読者から絶縁状を受けたのだからショックの大きさは想像されよう。
「内容がくだらんから止す」というのであれば、いさぎよく納得するしかないけれど、「貴方の作品を読んで怖くなりました。そんな怖い方とは知りませんでした」という理由だったから、ショックは更に倍加したのである。
 彼女がいう「貴方の作品」とは、僕の三冊目の作品集『愛と逃亡』のことであった。〈なぜ、どこが?〉――僕としては当然おきる疑問である。
(針山和美「作品と作者」)

「十数年来の読者」なのに『愛と逃亡』も『支笏湖』も『女囚の記』も読んでいないのだろうか。私は逆です。私はこれらの作品に加えて、『百姓二代』や『山中にて』などに接することによって「針山和美をやってみたい」となったのでした。この女性が「怖い」と感じた〈男〉の描写を私は想像することができますが、この自分の中の〈人間(男)〉や〈時代〉を書き切ったからこそ初めて針山和美は小説家になったのだと思っています。
「人間像」第131号は、『省三の夢』のほかに『作品と作者』(←いつもの「春山文雄」ではなく「針山和美」名を使っています)を読むことができ、私には意義深い号でした。

 
▼ 「人間像」第131号 後半   引用
  あらや   ..2025/01/27(月) 06:39  No.1153
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「人間像」第131号(120ページ)作業、終了です。作業時間、「57時間/延べ日数11日間」。収録タイトル数は「2475作品」になりました。

今年は、元日の朝にさらっと雪かきをしただけで、それ以来今日まで全然雪かきしていないのです。非常におかしな一月。近年、クリスマス直前まで雪がなく土が見えていたり、一月に雨が降っていたり(小樽しか知らないけれど…)確実に世界は温暖化していることを感じます。「人間像」の仕事がサクサク進むのは有難いが、こういう便利さを当然のように享受し続けている姿は、裏返せば、いつか終わりの日が近づいていることの兆しではないのか。世界中の山火事の映像を見ていると、こうやって人間は火につつまれて終わって行くのか…と思ったりします。

裏表紙は『老春』の広告に変わりましたが、「あとがき」の一部引用なので人間像ライブラリーの『老春』をご参照ください。



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