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あの夜の事は今も鮮明に憶えている。 もう三十年も昔の事とは思えないほど、思い出す度に私の胸はときめくのである。 星のきれいな、水天宮の祭りの宵であった。金魚すくいや、わた飴の出店がジグザグと並び人波が坂道を埋めていた。娘ざかりだった私は、友人達と仕立おろしのワンピースを着て、少しばかりビールなどを呑んで、そぞろ歩いていた。私は、近郊の町の家へ帰る最終列車の時刻を気にしながら、花園町へぬける陸橋にさしかかった時、紅いジャンパーを着た青年とその連れらしいハデな服装をしたガラのよくない一団とすれちがった、私は咄嗟に、紅いジャンパーの彼が仲よしだった幼なじみのKちゃんである事に気づいた。 (佐藤瑜璃「幼なじみ」)
小樽のタウン誌「月刊おたる」の調査を二月頃から再開しています。佐藤瑜璃さんや村上英治さんが書いている…ということは前から知らされていたのですが、その二人以外にも「人間像」同人が書いているかもしれず、また、私自身、小樽の街の歩みを確認したい思いもあって1965年7月の創刊号以来の悉皆調査を去年から始めていたのです。何度かの中断を経て、この三月時点では「2001年(平成13年)」のところまで来ています。 佐藤瑜璃さんと「月刊おたる」の関係もわかってきました。「月刊おたる」は300号に到達した1989年あたりで「月刊おたる文学賞」を始めます。文学賞は最初は小説部門と随筆部門に分かれていたのですが、小説部門の応募が振るわず、翌年には「月刊おたる随筆賞」に一本化されます。紹介した佐藤瑜璃さんの『幼なじみ』は1991年の随筆賞の優秀作なのでした。佐藤瑜璃さんの「月刊おたる」でのデビュー作です。
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