| 『長野って、アイヌの口誦文芸なんかについて解説してる、あの長野かい』と仙堂。 『聞きたいな』と堀川も。 エミは、寄りかかる仙堂の躰を避けるように、そっと腰をソファーの端にずらした。『その有名な長野さんに対して、おまえは俗物だよ。まぎれもない俗物中の俗物だ、って。頭が禿げ六十歳を越した温厚な長野さんが、とうとう赤沼さんの罵倒に耐えられなくなって、子供みたいに大粒の涙を零してたわ』と言って、腿のあたりを這っていた仙堂の手をやわらかく押え、『どうしようもないいたずらっ子』とたしなめた。 (蛭子可於巣「空洞に響く」)
千田三四郎(=蛭子可於巣)さんの単行本の作品なら全部読んでるつもりだったけれど、なんかこれは読んだことがないな…
作業してて、深く納得。意図的に単行本からは外したのですね。「人間像」で読めればそれでいい、「人間像」で読むことに大事な意味がある、と云うべきか。「人間像」の仕事をしていて、幸運だった。
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