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二三日前から第113号作業に入りました。第113号は約230ページの大冊なんですが、その半分は千田三四郎『見果てぬ夢舞台』という乾咲次郎ものです。つまり、前号の連作「落ち穂」の続きといつもの「人間像」レギュラー作品群が合体したものが第113号といえるでしょう。「落ち穂」の感覚がまだ残っているうちに仕事を始めようと考えました。
誘われてその気になったのは、政論を劇で鼓吹≠オようという壮士芝居の客気が地方に余燼をくすぶらせていたからで、中央でとうに途絶えたはずの幕間演説もまだ堂々とやられていたせいだろう。大衆に何かを訴えかける自分の、颯爽とした姿が、想像をくすぐったにちがいない。しかも前年に、その草分けと称えられる川上音二郎(一八六四―一九一一年)一座の東上公演を見物しており、舞台がかもす劇と演技の世界≠ノも魅了されていたからだ。 (千田三四郎{見果てぬ夢舞台}/序幕「模索」)
作業を進めているとこんな箇所にぶつかる。ちょっとだけ手を止めて、啄木の新聞記者を想ったりする。啄木の人生も明治の「小新聞」(北海道)から現代につながる「〈東京〉朝日新聞」の時代の変転の中にあったけれど、同じことを、東京で観た壮士芝居を起点に人生を生ききった人間がいたことにじつは感動しているのです。
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