| 今年最後の読書は吉村昭『水の葬列』でした。いろいろな変化があった一年をこのような作品で締めくくることができて幸福です。吉村昭から貰った「虚構小説」という概念をこれからも大切に大切に持っていたい。
たとえば『水の葬列』の場合は、こんな風であった。或るダム建設工事の技師と酒を酌み合っている時、かれが、工事の現場近くにある渓流に流れてきた朱色の椀のことを口にした。その上流に人は住んでいないとされていたので、不思議に思って調べてみると、上流に小さな村落があった。その地の人は、山を越えた向う側の村としか交流がなかったので、こちら側の町村の人たちは、そのような村落があることを全く知らなかったという。 その話に私の触角は刺戟され、脳の細胞も一斉に動き出して、『水の葬列』の小説世界が築かれていったのだ。 (「吉村昭自選作品集」第十五巻/後記)
この流れの向こうに、このような概念が潜んでいることを知らなかった一人でした。私も。
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