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▼ おらおらでひとりいぐも   引用
  あらや   ..2018/04/01(日) 10:44  No.447
   ファンファーレに押し出されるようにして上京したとき。桃子さんの回想は必ずそこから出発する。あのときを境に確かに桃子さんを取り巻く風景は一変した。山の子から都会生活へ。良い悪いは考えない。とにかくそうなったのだ。
 上野駅に降り立ったときのあの心細さ、それでいながら何とも言えない解放感を桃子さんは今に忘れない。たいへんなことを仕出かしてしまったという思いはあった。が不思議と後悔はなかった。もう引き返すことなどできないのだ、ならば後悔なんかしない、と自分に言い聞かせて。でもすぐにそんなことも不要になった。目新しさ、何もかも新鮮で心を奪われて、それに後悔だのなんだの後ろ向きのことを考える前に、まずここで働いて食べていかなければならないのだ。仕事を探した。何でもよかった、住み込みという条件さえクリアできれば。すぐに蕎麦屋の店員募集の張り紙を見つけた。東京オリンピックの好景気に沸くこの街で贅沢さえ言わなければ何とかなりそうな気もした。
(若竹千佐子「おらおらでひとりいぐも」)

東京オリンピックと言われると、私には必ず思い浮かべる作品があります。『ひよっこ』じゃありませんよ。

 宮本先生の話によると、東京は今、三年後のオリンピックを控えて、空前の好景気に沸いているらしい。空港、高速道路、競技場などが急ピッチで建設され、とにかく人手不足だという。
 たまに父を見舞いに行く市街地でさえ遠く感ずるのに、東京などとても想像がつかない。それに、私がいなくなったら信はどうなるのだろう。山羊の乳は誰が搾るのだろう。父は、母は、畑は……
(峯崎ひさみ「小豆」)


 
▼ 穴はずれ   引用
  あらや   ..2018/04/01(日) 10:49  No.448
  団塊の世代の人たちの思春期を語る言葉として「三年後のオリンピック」ほど的確な言葉を他に知らない。峯崎さんの『穴はずれ』、また読み返しました。また感動した。

『おらおらでひとりいぐも』には、感動したとか、そういうものはないのだけれど、なにかしら、じわーっと自分の過去があれこれ思い出されてくる小説ではありましたね。

昨日は歯の定期チェックで久しぶりに京極町に居ました。学校が春休みのせいかもしれないけれど、通りに人影が全然なくて寒々しい町だった。一年前のこの日、「人間像ライブラリー」やりたくてこの町を出たんだな…とか急に思い出した。

今やってる『人間像』第32号のデジタル復刻が終わったら、『穴はずれ』の復刻に取りかかろうかとちょっと思いました。アマゾンなどでも流通している現役の本なのでデジタル化は遠慮していたのだけど、でも、『穴はずれ』が入っていない「人間像ライブラリー」なんて意味ないな…と京極の町の様子を見ていて思ったのです。よい作品だからこそ、紙でこの手にしたい…と考える人も出てくるだろうし。けして紙の邪魔にはならない。そういう風に生きて行こうとも思いました。



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