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「子どもの文化」論考でたどる歩み
北海道における児童文学と児童文化の歩みを1冊にまとめた労作である。執筆は1994年に発足した北海道子どもの文化研究会と、その後継にあたる日本児童文学学会北海道支部に所属する研究者たち。同会及び同支部は毎年、研究誌「ヘカッチ」を発行してきたが、本書は同誌での論考等をもとにまとめた44編で構成されている 北海道の児童文学史と文化史の研究には先行する書物として、79年発行の「北海道の児童文学」(にれの樹の会編)がある。同書と本書の内容を対比すると、この40年余りの間に研究が大きく進展してきたことがよく分かる。 例えば資料の発掘もそのひとつだ。「戦後北海道の出版ブームと児童出版物」(谷暎子)は、米国メリーランド大学のプランゲ文庫で保存されている、連合国軍総司令部(GHQ)の検閲関連資料を使った論文。占領期の検閲で児童出版物の表現・言論がゆがめられた問題を記している。 また、「北海道の児童文学」でほとんど触れていないアイヌ民族について本書は3編の論考を収録する。そのなかで「児童雑誌・児童文学に描かれたアイヌ民族」(高橋晶子)は明治期以降、差別的表現がたびたび使われ、それが現代までも引き継がれてきたことを厳しく批判する。 「北海道の児童文学・児童文化の黎明期」「北海道の児童文学」「北海道の児童文化」の3部に本書は分けられている。そのなかで明治・大正の児童文化施設、戦後の人形劇と児童劇、紙芝居、絵本など、「児童文化」の歩みに多くのページを割いているところも本書の特色だ。児童文学偏重から「子どもの文化」全体を研究する方向に変わりつつあることも本書は示しているといえる。(中舘寛隆・編集者) (北海道新聞 2022年4月10日/書評欄)
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