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司書室BBS

 
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▼ 霧の海   [RES]
  あらや   ..2021/03/26(金) 18:20  No.821
   原稿を読み終えられたとき先生は
「困ったね君。これ軍部の検閲は通らんよ。いくら時代が徳川でも、何しろ、外国軍に敗れる日本軍の物語だからね」といわれた。
 小説の筋を略述すると――、文化四年にロシアの軍艦二隻がエトロフ島シャナを襲う。守備軍は、幕吏指揮下の南部・津軽両藩士三百。これに対してロシア軍は一門の大砲と兵二十八を上陸させる。日本軍は、敵の優秀な火器に恐怖してエトロフ島を抛棄する――アメリカ海軍に圧迫されつつあった当時の日本軍部が、このような物語を許すわけがない、という事を何故あのとき私には判らなかったのであろう。われながらその間抜けさ加減にあきれかえる。
(古宇伸太郎「広津和郎先生の書翰」)

その、戦時中に没になった長篇小説、古宇伸太郎『霧の海』を本日アップしました。出典は、「人間像」ではなく、昭和45年の「北方文芸」です。同じく「北方文芸」から、針山和美『同人誌だより・人間像』はすでにアップ済み。今、古宇伸太郎『広津和郎先生の書翰』を作業中です。
『霧の海』のワープロ作業をしている時、なにかこれ、以前「人間像」で手掛けたことのある小説じゃないか…と考え続けていたんだけど、わからない。「古宇伸太郎」の項にそれらしきものはなし。それが福島昭午『青い炎』(第67号)だと気がつくまでに、三日ぐらいは楽にかかりましたね。


 
▼ マウス騒動  
  あらや   ..2021/03/26(金) 18:24  No.822
  じつは一昨日、Windows10のバージョンアップを行ったら、とたんにマウスが働かなくなるという大事件が起こって、ああでもない、こうでもないと丸々二日間を浪費してしまいました。本日ようやく復旧です。

最初、今のワイヤレス・マウスが駄目なら昔使っていたコードのマウスをUSBに刺せばいいじゃん…とか楽観していたのだけど、今のパソコンは設定が何たらとか言い出して全然受けつけないのね。鬱陶しい世の中になったもんだ。今日はぐったり疲れたので、これまで。

 
▼ 広津和郎先生の書翰  
  あらや   ..2021/03/28(日) 18:48  No.823
  本日、昭和45年の「北方文芸」4〜6月号に連載された古宇伸太郎『広津和郎先生の書翰』をライブラリーにアップしました。当初の予定では、三章に分かれていたものを一本に纏めようと考えていたのですが、読んで行くうちに各章がきちんと序破急が施された作品であることがわかりましたので雑誌連載通り三章に分けてアップします。「広津和郎先生の書翰」としてではなく、古宇氏の一級品作品としてこれを読み終えました。

 君の御手紙にある余市の描写は、全く読んでゐてうっとりして来ます。大いに心が動きますが、僕等が疎開するとして住所があるのでせうか。小さな家、或は離れでも何でも結構ですが、その点を御調べ願へないでせうか。
(広津和郎/昭和二十年三月十四日書翰)

広津和郎先生の疎開案に北海道が挙がっていたことは以前福島氏から教えられて知っていたのですが、まさか「余市」だったとは。余市はいい街ですよ。

 
▼ 戦争  
  あらや   ..2021/03/28(日) 18:52  No.824
   地下街には商店が開かれてゐた。歩道の壁ぎわに蓆を敷いて、家を失った人々が座ってゐた。乞食然とした服装が半分、さうでないのが半分、婦人も少年少女も混ってゐる。新聞でいくども読み人からも聞かされてゐたのでその光景は想像どほりで、さほど驚きはしなかった。ふと、若い母と娘が眼にとまった。母親は二十二三才、新聞を敷いてキチンと膝を折ってゐる。顔だちにいやしさがない。二間ほど離れたところに商店の大きなリヤカーが立てかけてあってその車輪を、二つ位の女の子が弄っていた。くるくる廻る車輪が面白いのである。若い母親はその幼女をじいッと見まもってゐた。静かな表情である。それは人類に共通する母親の美しい眸である。静かな、暖い愛のあふれる姿だった。私はあわてた。あわてて私は地上に脱れでたのである。今おもひだしても眼頭が熱くなる。
(古宇伸太郎/昭和二十一年十一月十六日 帰道後の追記)

空襲から敗戦へ。占領下の東京。上野駅の地下道。夜汽車… 書くべきことはきちんとすべて書きとめた、心に沁みる作品。古宇伸太郎は残るべき。もう少し発掘を続けます。

 
▼ 蛾性の女  
  あらや   ..2021/04/01(木) 16:41  No.825
  昨日、古宇伸太郎『蛾性の女』をアップしました。この作品は、戦後の「人間像」時代のものではなく、日本が太平洋戦争に突入して行く時代の「文学者」昭和15年2月号に発表された作品です。当時の芥川賞候補になった作品。幸いなことに昭和56年の「北海道文学全集」(立風書房)に収録されていたので今回人間像ライブラリーに加えました。

作業してみて… 読んでいる時は気がつかなかったけれど、「北海道文学全集」って意外と誤植が多いですね。ここは「文学者」現物に当たりたいところだけど、何の肩書も持たない今の私にはどうすればいいのか見当もつかない。
古宇作品としては、もう一つ、昭和17年の「北方文藝」(←戦後の「北方文芸」とは違います)第五号に載った『馬頭観音』を考えているのですが、これ、北海道立図書館では「禁帯」なんだよね。大麻は遠い。今少し、時間をください。

さて、明日より「人間像」作業、再開です。今日は冬の道具の片付けをしたり、部屋の掃除をしたりして結構一日仕事になってしまった。


▼ 現代スペインとスペイン語の研究   [RES]
  あらや   ..2021/03/20(土) 17:45  No.817
  これが『現代スペインとスペイン語の研究』です。ただ、私の持っているのは昭和57年2月発行の第3版なのですが、タイトルが『スペイン文化とスペイン語の研究』になっていますね。初版が昭和46年ですから、さすがに〈現代〉は使えなかったのかもしれません。でも、十年以上の長きに亘って出版され続けているのだから名著なのでしょうね。スペイン語門外漢の私にも面白く読めるんです。例えば、「動詞TENERの直説法現在」では、

 今日は,4月10日,ぽかぽかと暖く,桜(cerezo)は満開,まさに,春爛漫(1a primavera en sugloria = en su plenitud)の季節である。午後,リクリエーション(recreacion, recreo)のドライブ(paseo en coche= automovil)の帰りだという友人が見舞いにきてくれた。その節,胃潰瘍のために煙草をやめているぼくと,その友人とのあいだで,こんな会話のやりとりがあった。

で、スペイン語文とその訳につながって行くという… もうほとんど「人間像」の瀬田「日記」の延長線上という感じですね。


 
▼ 「人間像」第84号 裏表紙  
  あらや   ..2021/03/20(土) 17:49  No.818
  申し訳ありません。以前、第84号裏表紙として第85号の裏表紙画像を使ったのですが、図書館で第84号現物を確認した結果、第85号画像では不適切なことが判明しました。こちらが正しい第84号の裏表紙画像です。(ライブラリーの「人間像 第84号」はすでに修正済み)

 近刊予告
「人間像」同人 天理大学教授・瀬田栄之助著
 現代スペインとスペイン語の研究
 東京都 大盛堂出版
 四六版 六〇〇頁・定価 一五〇〇円
 一九七〇年一月刊

〈紹介〉 本書は、真にショッキングな過程を経て生れた。本書の執筆は、昨年春、著者が胃潰瘍に倒れた時点から初まり、本年、癌に移行した際も、彼はその作業を止めず、遂に完成せしめた凄じい瀬田の執念の産物である。本書は、従来の無味乾燥なスペイン語の参考書界の体制を革新する意図の下に一人の貧しいアルバイト学生に語りかけるという新鮮な小説的手法を用い、英・独・仏語を駆使して、現代スペインとスペイシ語を説明している。その内容もスペイン語の大法に初まり、一九三六年の革命美術・歴史・文学・映画etc。スペインに関する必要な知識の全てを網羅している。彼の目ぼしい研究論文多数が収録されている点も大いに注目に価しよう。乞御期待というところである。(針山和美)

 
▼ 「人間像」第85号 裏表紙  
  あらや   ..2021/03/20(土) 17:54  No.819
  で、これが第85号の紹介文。「針山和己」は誤植かと思っていたのだが、第84号の「同人名簿」から「針山和己」の表記に切り替わっていますね。「和己」が何号まで続くのか、まだ確認していないけれど、短期間ではないようです。人間像ライブラリーの著者インデックスも「針山和己」表記をひとつ増やすことにします。

 人間像同人による近刊予告 〈一九七一年一月刊行予定〉
 現代スペインとスペイン語の研究
 瀬田栄之助著 大盛堂刊 A5判 一五〇〇円

 本書は、瀬田が昨年病躯を押して執筆した文字通りのライフワークである。本書は従来の無味乾燥な参考書と異り、一人の貧しいアルバイト学生に死期の迫まった教師が彼の持つスペイン語とスペインに対する全ての知識を語り伝えるといった真に独則的な手法が用いられている。瀬田は、大阪外語大と天理大でスペイン文化史と文学史の講座を持つだけあって、本書を埋めるスペインの歴史・美術・文学等々に関する多数の該博な論文は、われら門外漢にあっても大いに興味をそそられるところである。
 目下、再校の段階である。本書の発刊と瀬田の速やかなる快癒を友人の一人として待望するものである。(針山和己)

 
▼ 「人間像」第86号 裏表紙  
  あらや   ..2021/03/20(土) 17:57  No.820
   現代スペインとスペイン語の研究
  瀬田栄之助著
  東京・大盛堂刊
  A5判 700頁

 これは本誌同人・瀬田が、本来の素顔に戻って彼自身の本領をフルに発揮した文字通りの労作である。彼は従来のこの種の無味乾燥な書を圧殺して、真にオリジナリティに富み、且つ、ハイ・ブロウな労作を完成した。私は、兼々、瀬田が大阪外語を首席で卒業し、英・米・独・仏語にも通暁し、わが国の語学界でも指折りの逸材であることは噂に聞いていたが、彼は本書でそれを証明した訳である。
 また、瀬田は、スペイン文学が単にヨーロッパの避地の文学ではなく、広くヨーロッパ文学圏に繋るものである事を、ピカレスクやドン・キホーテに始まり、二〇世紀文学の社会派の新鋭・ヒロネリーアやマックス・アウブやガルシーア・ロルカに対する彼の本格的論文を踏まえて茲に実証した。瀬田はスペイン語の解説をするに日本語で不可能な点は、英語で執筆したりしている点も一驚である。瀬田は、この稿を胃ガンで入院中にも退院后の療養中にもエネルギッシュに千枚近くの草稿を執筆した。生命の極限状況に在ってのそのバイタリテーには友人の一人として深く敬意を表すると共に、広く、江湖に喧伝したい。(針山和己)








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