| 「人間像」第79号作業をやっていた十一月、夜、布団の中でずっと梯(かけはし)久美子さんの『サガレン』を読んでいました。「第一部/寝台急行、北へ」と「第二部/〈賢治の樺太〉をゆく」の二部構成。サガレンというのは、宮沢賢治が樺太へ旅をした当時の樺太の呼び名です。宮沢賢治も作品の中では『サガレンと八月』のように「サガレン」を使います。
ロシアには、サンクトペテルブルグ→ペトログラード→レニングラード→再びサンクトペテルブルグと、体制の変化によって何度も名前を変えた部市もあるし、領土の拡大にともなって自国に編入した土地の都市名をロシア語に変えた例も多い。 日本でも、古くからの地名を捨てて、歴史とは無縁の地名をつけてしまう例があるが、そこには激動の歴史などといったものはなく、単に二つの地名をくっつけたり、語感のみを重視した軽薄な地名をつけたりしている。 それに対してサハリンの地名には、国境の島ならではの歴史の厚みが隠されている。いくつもの名が地層のように積み重なった土地を、列車に乗って旅していると、まさに歴史の上を走っているのだという実感がわいてくる。 (第一部/三、ツンドラ饅頭とロシアパン)
じつは、コロナ下の今年5月30日、7月18日、9月5日、北海道新聞で連載された『ほっかいどう鉄道探偵』、宮沢賢治の大正13年・花巻農学校・修学旅行引率を扱った文章が大変心地よく、こういう人が書いた『サガレン』なら面白いに違いないと思って読み始めたのでした。
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